なぜゆたかな今、不安な人が増える?-市場主義の失敗-
なぜゆたかな現代で不安を感じる人が増えるのでしょうか?その要因は『市場主義(思想)の失敗』であります。市場主義を信じる人は、何かを得るには常に対価が必要と考えます。この考えは社会関係に持ち込まれ、
社会(家庭、職場、地域など)に存在する価値のある=対価を差し出し続けられる
人間であろうとします。しかし現実にはそれは不可能です。この理想と現実の差が『強い不安』をもたらします。これが市場主義による不安増大、『市場主義の失敗』です。
1.『強い不安』を持つ人は増えている
現在、世界中で不安障害や気分障害等の精神疾患が増大しています。実際、ロイター通信[1]によると、世界で精神疾患が増加傾向にあり、現在世界のうつ病患者は3億人前後であると指摘しています。さらに、厚生労働省(図1参照)によれば、日本においても精神疾患が増加傾向であり、特にうつ病、不安障害が増加しています。これらの背景には、精神に異常をもたらすような『強い不安』を持つ人が増加していることが要因と考えられます。
図1 精神疾患の患者数 出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/4_01_00data.html)
2.市場主義思想が不安を増大させる-『市場主義の失敗』-
なぜ、経済的にゆたかになったはずの現代で不安をもつ人が増加するのでしょうか?これは市場が万能だと信じる、『市場主義』が世界中に浸透したことが要因と考えます。確かに、市場経済は効率的で優れた経済システムです。ただし、万能ではなく『市場の失敗』と呼ばれる問題も存在します。ここでは、市場主義が『強い不安』をもたらすことを述べます。
まず、市場主義が不安をもたらすメカニズムは次のようになります。
Ⅰ.社会に『無条件の』居場所がなくなる
Ⅱ.居場所が常に脅かされ、『強い不安』を覚える。
以下では、市場主義がなぜこの2つをもたらすのかをのべます。
2.Ⅰ.『無条件の』居場所がなくなる
まず市場主義とは何かを定義します。これは2つの原理、考えから成ります。それは
・(交換原理) 何かを得るには、何か対価を必ず差し出さなければいけない
・(最適化原理)人々は自分の得を最大化しようとする
の2つです。
次にこれらを信じる人、市場主義者はなぜ『強い不安』をもつのかをのべます。
(交換原理)を強く信じる人は、何かを差し出さなければ何かを得られないと信じています。なので、今の居場所:社会(家庭、職場、地域など)に居続けるには、社会へ貢献をし続けなければならない、と考えます。逆に考えれば、貢献できない人は不要な存在であり、居場所がないと考えます。
(最適化原理)を強く信じる人は、人々は自分の得に一番関心がある、と信じます。そのため、今の居場所:社会(家庭、職場、地域など)に居続けるには、それらを構成する人々にとって得な人、役立つ優れた人でなければならない、と考えます。逆に考えれば役に立たない劣った人は不要な存在であり、居場所がないと考えます。
すなわち市場主義を信じる人は、社会に居場所を確保するためには、貢献し続けられる・役立つ優れた人でなければならないと信じます。つまり社会は条件つきで人を受け入れるものであり、『無条件に』居てよい場所がないと信じます。
2.Ⅱ. 居場所が常に脅かされ、『強い不安』を覚える。
しかし、現実は人間はいつでも健全ではないし、自分より優れた人はたくさんいます。従って常に貢献することは不可能ですし、常に優れた人であるのも不可能です。
これにより、自分は今の居場所:社会(家庭、職場、地域など)において不要となるのではないか?という『強い不安』を常に感じることになります。
これがゆたかな現代すなわち市場主義が広く受け入れられたからこそ、『強い不安』が起こるメカニズムです。市場は優れた経済システムですが、人間の心理にとっても優れている、万能なものではありません。このような『市場主義の失敗』が存在することを受け入れ、対策をとることが必要と考えます。
3.まとめ
市場主義とは、
・(交換原理) 何かを得るには、何か対価を必ず差し出さなければいけない
・(最適化原理)人々は自分の得を最大化しようとする
の2つの原理をもつ。これらを信じる人は常に貢献できる優秀な人でなければならないと信じる。しかし、それを常に行うのは不可能である。この理想と現実のギャップが強い不安をもたらす。これが人間の心理からみた『市場主義の失敗』である。
参考文献
[1]世界で精神疾患が増加、2030年までに16兆ドルの損失も=研究 | ロイター 2018年10月10日 (最終閲覧日 2018年11月17日)
[2]市場経済 - Wikipedia(最終閲覧日 2018年11月17日)
[3]愛着理論 - Wikipedia(最終閲覧日 2018年11月17日)
[4]市場原理主義 - Wikipedia(最終閲覧日 2018年11月17日)